「うちの子の歯並び、少しガタガタしているけれど、このままで大丈夫なのかな?」 「矯正治療って、痛いんじゃないか、お金もすごくかかるんじゃないか…」 「そもそも、何歳くらいで歯医者さんに相談すればいいんだろう?」
お子様の成長とともに、歯並びに関する悩みや疑問は尽きないものです。乳歯から永久歯へと生え変わる時期、お子様のお口の中はダイナミックに変化していきます。その中で、少しのズレや重なりが気になり始め、矯正治療という選択肢が頭をよぎる保護者の方も少なくないでしょう。
しかし、いざ矯正治療について調べてみると、「床矯正」「筋機能矯正」「ワイヤー矯正」といった専門的な言葉が並び、情報が多すぎて何が最適なのか分からなくなってしまうことも。また、「始めるなら早い方が良い」と聞きつつも、具体的に「いつ」がベストなのか、判断に迷うことも多いのではないでしょうか。
お子様の歯並びは、単に見た目の美しさだけの問題ではありません。正しく整った歯並びは、虫歯や歯周病のリスクを減らし、食べ物をしっかりと噛む(咀嚼)機能や、はっきりとした発音をサポートするなど、お子様の生涯にわたる健康の礎となります。だからこそ、保護者として最善の選択をしてあげたいと願うのは当然のことです。
この記事では、そうした保護者の皆様が抱える不安や疑問を一つひとつ解消し、安心して第一歩を踏み出せるよう、お子様の矯正治療について網羅的かつ詳細に解説していきます。
お子様の矯正治療にはどんな種類があるのか、それぞれのメリット・デメリットは?
結局、どの治療法を選ぶのが一番良いの?
治療を開始する「最適なタイミング」は本当に存在するのか?
治療期間や費用はどのくらいかかる?
お子様の矯正治療は、大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます。これらはそれぞれ異なるアプローチで歯並びの問題に働きかけ、得意なこと、不得意なことがあります。まずは、それぞれの治療法がどのようなものなのか、その本質を深く理解することから始めましょう。
歯並びが悪くなる原因は、遺伝的な要因だけでなく、実は日常の些細な「癖」が大きく関わっています。例えば、いつも口をポカンと開けている「口呼吸」、舌で前歯を押す「舌突出癖」、指しゃぶり、間違った飲み込み方(嚥下)などです。これらの癖は、お口周りの筋肉(口腔周囲筋)のバランスを崩し、歯を不適切な位置へと動かしてしまうのです。
筋機能矯正は、このような歯並びを乱す根本的な原因である「筋肉の不調和」を、専用の装置とトレーニングによって改善し、お子様自身が持つ「筋肉の力」で歯並びを正しい位置へと導く治療法です。代表的な装置として「マイオブレース(Myobrace)」などが知られています。
心身への負担が少ない装置:主に、日中の1〜2時間と夜間の就寝中に、取り外し可能なマウスピース型の装置を装着します。学校に付けていく必要がないため、お子様の心理的な負担や、お友達との関係を心配する必要がありません。
顔つきの健やかな発育を促す:筋機能矯正の最大の特長は、単に歯を並べるだけでなく、顔つきそのものを健やかに育む点にあります。口呼吸から鼻呼吸へ改善されることで、顎は適切に前方へ成長し、引き締まった知的な顔立ちになりやすいと言われています。アデノイド様顔貌と呼ばれる、口が常に開いていることによる独特の顔つきの予防・改善も期待できます。
虫歯・歯周病リスクの低減:口を正しく閉じられるようになると、お口の中が唾液で潤い、自浄作用が高まります。これにより、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しにくい環境が作られ、将来的なお口のトラブルを予防する効果が見込めます。
根本治療による後戻りの少なさ:歯を無理やり動かすのではなく、歯並びを悪くしている癖そのものを改善するため、治療後に歯並びが元に戻ってしまう「後戻り」のリスクが低いとされています。
お子様の協力が絶対条件:この治療法の成否は、お子様自身が装置の装着と日々のトレーニングを継続できるかにかかっています。保護者の方の励ましやサポートはもちろん、お子様本人の「治したい」という意欲が不可欠です。トレーニングを怠ると、期待した効果は得られません。
重度のガタガタは治しきれない:筋肉の力で歯を自然な位置へ導くアプローチのため、骨格的に大きなズレがある場合や、歯のガタガタが非常に大きい場合には、筋機能矯正だけで完全に綺麗にすることは難しいケースが多いです。あくまで、歯並びの土台となる「お口の環境」を整えることが主目的となります。
仕上げの矯正が必要になることも:多くの場合、筋機能矯正で大まかな問題を解決した後、歯の細かな傾きや位置を精密に整えるため、後述するワイヤー矯正やマウスピース矯正といった「仕上げの治療(2期治療)」が必要となります。
「歯がガタガタに生えてきてしまった」その直接的な原因の多くは、歯の大きさと顎の大きさのアンバランス、つまり「歯が並ぶためのスペース不足」です。永久歯は乳歯よりも大きいため、顎が十分に成長していないと、後から生えてくる永久歯が並ぶ場所がなく、重なり合って生えてきてしまうのです。
床矯正は、このスペース不足を解決するために、入れ歯のような取り外し式の「床(しょう)」と呼ばれる装置を使って、主に上顎の骨を側方へ拡大する治療法です。装置に埋め込まれたネジを保護者の方が定期的に巻くことで、装置が少しずつ広がり、それに合わせて顎の骨も広がっていきます。
抜歯の可能性を劇的に下げる:子供の矯正における床矯正の最大のメリットは、将来的に健康な永久歯を抜かずに済む可能性が非常に高まることです。顎の成長期に介入し、歯が並ぶための土台(歯槽骨)そのものを広げることで、全ての歯が綺麗に収まるスペースを作り出します。
短期間での顎の拡大が可能:特に上顎は、中央に「正中口蓋縫合」という骨の継ぎ目があり、この部分が固まってしまう前(一般的に10歳頃まで)であれば、比較的短期間(数ヶ月〜1年程度)でスムーズに顎を広げることが可能です。
顔のバランス改善への貢献:上顎は顔の中心部に位置する重要な骨です。上顎を適切に拡大することで、鼻腔も広がり鼻呼吸がしやすくなったり、下顎の健やかな成長を促したりと、顔全体のバランスの整った発育に貢献します。
取り外し可能で衛生的:食事や歯磨きの際には取り外せるため、装置に食べ物が詰まる心配が少なく、お口の中を清潔に保ちやすいという利点があります。
装着時間の遵守が必須:効果を得るためには、1日に12時間以上など、歯科医師の指示した装着時間を厳守する必要があります。学校から帰ってきてから翌朝まで、といった長時間の装着が必要となることが多く、お子様にとっては大きな負担となる場合があります。装着時間が短いと、計画通りに顎が広がらず、治療が長引く原因になります。
床矯正だけでは終わらないことが多い:床矯正の役割は、あくまで「歯が並ぶスペースを作ること」です。スペースが確保できたからといって、全ての歯が自動的に理想的な位置に並ぶわけではありません。研究データによれば、床矯正だけで満足のいく歯並びになるのは約3割程度とも言われています。残りの7割のケースでは、個々の歯を精密に動かすための仕上げの矯正治療が必要となります。
下顎の拡大には限界がある:上顎と違い、下顎には骨の縫合がないため、床矯正で骨そのものを大きく広げることは困難です。下顎の場合は、歯を支える骨(歯槽骨)を傾斜させることでスペースを作りますが、その拡大量には限界があります。
筋機能矯正や床矯正が、主に顎の成長を利用した「準備段階の治療」であるのに対し、ワイヤー矯正やマウスピース矯正は、歯一本一本を三次元的に精密にコントロールし、理想的な位置へと動かしていく「本格的な治療」と位置づけられます。これらは、一般的に永久歯が生えそろった後(10歳以降)の第一選択となります。
ワイヤー矯正:歯の表面に「ブラケット」という小さな装置を接着し、そこにワイヤーを通して力を加えることで歯を動かす、最も歴史と実績のある治療法です。
マウスピース矯正:「インビザライン」に代表される、透明なマウスピース型の装置を定期的に交換していくことで、少しずつ歯を動かしていく比較的新しい治療法です。
圧倒的な仕上がりの美しさ:歯に直接、計画的かつ持続的な力を加えるため、歯の傾き、ねじれ、高さといったミリ単位の微調整が可能です。他のどの方法よりも、審美的にも機能的にも完璧に近い歯並びを目指すことができます。
確実性の高い治療結果:矯正専門医による適切な診断と治療計画のもとで行われれば、ほぼ確実に綺麗な歯並びを実現できます。対応できる症例の幅も最も広いです。
治療期間が比較的長い:一般的に、歯を動かす期間(動的治療期間)だけで1年半〜3年程度、その後、歯並びを安定させるための保定期間が必要となり、トータルでの治療期間は長くなる傾向があります。
費用が高額になりやすい:子供の矯正治療としては、筋機能矯正や床矯正と比較して、費用が高くなることが一般的です。
抜歯が必要となることがある:特に10歳を過ぎて顎の成長がほとんど終了している場合、歯を並べるスペースが絶対的に不足していれば、やむを得ず永久歯を抜歯(便宜抜歯)してスペースを作り出す必要が出てきます。
装置による不快感や虫歯リスク:ワイヤー矯正の場合、装置が固定式のため歯磨きがしにくく、虫歯や歯肉炎のリスクが高まります。また、装置の調整後には数日間、歯が浮くような痛みや違和感を感じることがあります。マウスピース矯正は取り外し可能ですが、装着時間を守らないと効果が出ません。
ここまで3つの主要な治療法を見てきましたが、「結局、どれが一番良いの?」と思われたかもしれません。実は、現代の小児矯正において最も理想的とされているのは、**単一の治療法に頼るのではなく、お子様の成長段階に合わせて複数の治療法を組み合わせる「2段階治療」**という考え方です。
これを、家づくりに例えてみましょう。
1期治療(準備矯正/咬合育成治療):これは「土地の造成・基礎工事」にあたります。家を建てる前に、土地を広く平らに整地し、頑丈な基礎を築く工程です。矯正治療における1期治療は、まさに顎の成長期(主に6〜10歳頃)に行うもので、床矯正で顎という土地を広げたり、筋機能矯正でお口周りの環境という基礎を整えたりする役割を担います。この段階の目的は、骨格的な問題を解決し、永久歯が正しく生えるための土台を準備することです。
2期治療(本格矯正):これは「家を建てる・内装を仕上げる」工程です。整えられた基礎の上に、柱を立て、壁を作り、部屋を配置し、インテリアを整えて美しい家を完成させます。矯正治療における2期治療は、1期治療で整えられた土台の上に、永久歯がすべて生えそろった後(主に10〜12歳以降)に行われます。ワイヤー矯正やマウスピース矯正を用いて、歯一本一本を最も機能的で美しい位置に精密に配置し、完璧な噛み合わせを完成させることを目的とします。
つまり、1期治療で顎の大きさと筋肉のバランスという「ハード(骨格)」と「ソフト(筋肉機能)」の土台をしっかり整えておくことで、2期治療が非常にスムーズに進むのです。抜歯のリスクを大幅に減らせるだけでなく、治療期間の短縮や、より安定した美しい仕上がりにつながります。
もちろん、全てのケースで2段階治療が必要なわけではありません。歯並びの乱れが軽度な場合や、骨格的な問題がない場合は、1期治療だけで済んだり、2期治療だけで十分だったりすることもあります。だからこそ、どの治療法を、どのタイミングで、どのように組み合わせるかを見極めるための、専門家による精密な診断が何よりも重要になるのです。
「治療を始めるなら、何歳がベストですか?」これは、保護者の方から最も多く寄せられる質問です。結論から言うと、お子様の矯正治療を開始するべき最適な時期、いわば「ゴールデンタイム」は、6歳から9歳の間です。遅くとも、10歳の誕生日を迎える前には一度、専門家にご相談いただくことを強く推奨します。
なぜ、この時期がそれほどまでに重要なのでしょうか。その鍵は**「上顎の成長」**に隠されています。
人間の体の成長には、部位ごとにピークの時期が異なります。身長がぐんと伸びるのが思春期であるのに対し、脳や頭蓋骨、そして顔の一部である上顎の成長は、非常に早い段階でピークを迎え、平均して10歳頃には大人の大きさの90%以上が完成し、成長がほぼ停止してしまうのです。
特に、6歳から8歳にかけての時期は、上顎の成長が最も活発なスパート期にあたります。この貴重な成長期間を逃してしまうと、床矯正装置などを使っても骨自体を広げることが非常に難しくなります。10歳を過ぎてからの矯正は、いわば完成してしまった土台の上で歯を並べる「成人矯正」に近いアプローチにならざるを得ず、治療の選択肢が大きく制限されてしまうのです。
この「ゴールデンタイム」に矯正治療を開始(1期治療)することには、計り知れないメリットがあります。
顔つきを健やかに育むことができる:顎の成長を正しい方向へコントロールすることで、バランスの取れた美しい顔立ちへと導くことができます。これは、成長期にしかできない、小児矯正ならではの最大の特権です。
抜歯の可能性を限りなくゼロに近づける:最大のメリットと言っても過言ではありません。顎の成長を利用してスペースを確保するため、健康な歯を抜くことなく、すべての永久歯を綺麗に並べられる可能性が飛躍的に高まります。
治療の選択肢が広がる:床矯正や筋機能矯正など、顎の成長を利用できる装置が選択肢に入ります。お子様の状態に合わせて最適な方法を選ぶことが可能です。
2期治療の負担を軽減できる:1期治療で土台が整っていれば、たとえ2期治療が必要になったとしても、その治療期間が短縮されたり、より簡単な装置で済んだりするケースが多く、結果的に心身・経済的な総負担を軽減できます。
コンプレックスの早期解消:多感な時期に歯並びのコンプレックスを抱えることは、お子様の心理的な成長にも影響を与えかねません。早期に改善することで、自信を持って笑顔になれるようになります。
もし、10歳を過ぎてから矯正を考えた場合、これらのメリットの多くを享受することが難しくなります。顎のスペースが足りなければ、歯を並べるために抜歯を選択せざるを得ない可能性が高まり、治療もワイヤー矯正やマウスピース矯正といった歯を直接動かす方法に限られてきます。
もちろん、10歳を過ぎたら手遅れというわけでは決してありません。何歳からでも矯正治療は可能であり、素晴らしい成果を得ることができます。しかし、「もし、もっと早く始めていれば…」と後悔しないためにも、お子様の歯並びが少しでも気になったら、まずは**「6歳臼歯が生え、前歯の永久歯が生え始めた頃」**を目安に、一度、矯正相談に訪れてみてください。「相談=即治療開始」ではありません。まずは専門家の目で現状を正しく把握し、最適なタイミングを知っておくことが、未来への最良の備えとなるのです。
今回は、お子様の矯正治療について、その種類から最適な開始時期まで、詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントをもう一度振り返ってみましょう。
主な治療法は3種類:お口の「癖」を治す①筋機能矯正、顎の「スペース」を作る②床矯正、歯並びを「完璧」に仕上げる③ワイヤー/マウスピース矯正。それぞれに長所と短所があります。
理想は「組み合わせ治療」:多くの場合、顎の成長期に行う「1期治療(筋機能矯正や床矯正)」で土台を整え、永久歯が生えそろってから「2期治療(ワイヤー/マウスピース矯正)」で仕上げるという2段階のアプローチが、抜歯を避け、最も美しく安定した結果につながります。
カギは「開始時期」:上顎の成長が活発な6歳から9歳が治療開始のゴールデンタイムです。この時期を逃さず介入することで、顔つきの健やかな発育を促し、抜歯のリスクを大幅に減らすことができます。
まずは「相談」から:お子様の歯並びが気になったら、何歳であっても、まずは専門家である歯科医師に相談することが第一歩です。精密な診断を通して、お子様一人ひとりの骨格や歯の状態に合わせた、世界に一つだけの最適な治療計画を立てることができます。
お子様の矯正治療は、時間も費用もかかる、決して簡単な道のりではないかもしれません。しかし、それはお子様の未来への、かけがえのない投資です。整った歯並びと正しい噛み合わせは、自信に満ちた笑顔だけでなく、虫歯や歯周病になりにくいお口の環境、そして、生涯にわたって自分の歯で美味しく食事を楽しめるという、何物にも代えがたい「健康」という財産をプレゼントしてくれます。
少しでも不安なこと、分からないことがあれば、どうか一人で悩まず、お近くの信頼できる歯科医院にご相談ください。専門家との二人三脚で、お子様の輝く未来への扉を開きましょう。
監修 ひだまりおとなこども歯科 土屋泰樹
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